食に就いて
辰巳芳子(たつみ・よしこ)
料理家、随筆家。1924年、東京生まれ。料理研究家の母、浜子の元で家庭料理を学び、その後フランス、イタリア、スペイン等の西洋料理も研究。嚥下障害を患った父親の介護をきっかけにいのちを支えるスープの大切さに気づく。『スープの会』主催、NPO法人『良い食材を伝える会』会長、NPO法人『大豆100粒運動を支える会』会長。著書に『あなたのためにいのちを支えるスープ』『仕込みもの』『庭の時間』(以上文化出版局)、『辰巳芳子のことば 美といのちのために』(小学館)など。
竹内修一(たけうち・おさむ)
神学博士、上智大学神学部神学科教授。1958年生まれ。 米国バークレー・イエズス会神学大学院修了。専門は、哲学、倫理学。 著書に『風のなごり』『ことばの風景』(以上教友社)など。
人はみな、「幸福」を目指して生きている。何が幸福であるかは、その後の問題。しかし、私たちにとって、真の幸福とは、「いのちそのもの」に与ること、それにつながっていることではないか、とそう思う。
「死」とは、この幸福の対極に位置するもの。それゆえ、人は、無意識のうちにも死を恐れるのだろう。多くの人は、死を、自分の存在がまったくの無に帰してしまうこと、と理解しているかもしれない。しかし、もし、死は、新たないのちへの変容だとしたら、どうだろう。
自分のいのちは、他のいのちによって生かされている。しかし、同時にまた、他のいのちを生かしている。いのちのつながり──この手応えが感じられなくなるとき、人は、不安になり、希望を失い、絶望へと向かう。
いのちは、本来、分析するものではなく、実感するもの。“食べる”という行為は、端的にそれを体験する。同時にまた、それによって、他のいのちが自分のいのちへと変容していくのを知らされる。
いのちの鎮み行く人。その人に必要な食事とは、いったい、どのようなものなのだろう。おそらく、それは、食べきれないほどの豪華なものではないだろう。
むしろ、それをとおして、食事を供した人と食した人が一つとなる、そのようなものではないか、とそう思う。そこには、互いの息遣いの中にいのちの共鳴が生まれ、きっと、感謝という余韻が静かに響くであろう。(了)
天のしずく 辰巳芳子 “いのちのスープ"[DVD]
辰巳芳子が病床の父のために工夫を凝らして作り続けたスープは、やがて人々を癒す「いのちのスープ」と呼ばれるようになり、多くの人々が関心を寄せています。ていねいに、素材が喜ぶように作り出されたスープ。それを口にした人々のホッと息づく表情・・・。この映画で描かれるスープの物語は、辰巳芳子が唱える、食を通して見える「いのちと愛」の道筋です。
◆河邑厚徳/監督・脚本
1948年生まれ。映画監督。大正大学任期制教授、元女子美術大学教授。元NHKエグゼクティブ・プロデューサー。「シルクロード」「アインシュタイン・ロマン」「チベット死者の書」「エンデの遺言」「世界遺産プロジェクト」など特集ドキュメンタリーを企画、制作。精神世界、アート、理論物理学、現代史などをテーマに最新の映像技術を使った斬新な表現手法で高い評価を得ている。
<キャスト>
朗読:草笛光子
ナレーション:谷原章介
音楽:吉田 潔
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