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岡田茂吉を語る

世界に広がる岡田思想 「岡田茂吉氏は日本が誇る重要な思想家のひとり。」


翻訳家 上野圭一(うえの・けいいち)

翻訳家。1941年宝塚市生まれ。早稲田大学英文科卒、東京医療専門学校卒。日本ホリスティック医学協会名誉顧問、CAMUnet(代替医療利用者ネットワーク)副代表、癒しと憩いのライブラリー館長。著書に『補完代替医療入門』(岩波書店)、訳書に『癒す心、治る力』『ヘルシーエイジング』『ワイル博士のうつが消えるこころのレッスン』(以上角川書店)など。


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世界に広がる岡田思想 「岡田茂吉氏は日本が誇る重要な思想家のひとり。」


2010年の秋、アメリカの首都ワシントンDCで開催されたシンポジウム「統合医療の現在と未来」で、米英の代表的な医師2人から岡田茂吉思想にたいする情熱的な賛同の言葉を聞いて、わが意を得た思いをした。かねてから岡田茂吉氏が宗教家であると同時に日本が誇る重要な思想家のひとりであり、その「脱近代」の思想は現代という困難な時代に課せられた「持続可能な社会づくり」という重大な課題の解決に貢献すると考えていたからである。
「持続可能」とは、地球温暖化やグローバル経済の横行によるモラルの崩壊、格差の拡大、エネルギー資源や水資源の枯渇、食料危機などの破滅への道を賢く避けて、子々孫々まで地球とその生態系(動植物・人間)の持続を可能にするという意味の言葉だ。
温暖化、グローバル経済、資源の枯渇などは、ひたすら合理化、効率化、快適化、簡便化、高速化を追求してきた「近代化」がもたらした負の側面であり、そこから脱して自他ともに生きのびようとする試みが「脱近代」ということになる。

岡田茂吉氏は明治初期の、日本が「近代化」に向けて全速力で走り出したまさにそのときに、東京は浅草で生まれた。日本の伝統文化が発酵に発酵をかさねて爛熟の域に達していた時代の空気を色濃く残していた町に生まれ育った岡田茂吉氏は、粋で人情の裏表につうじ、身なりや気質がさっぱりとして垢ぬけ、器量が大きく、互助的でありながら反骨的で、どことなく色気を発散している人が 一目置かれた江戸下町の気風をそっくりそのまま受けついだような人柄だった。
江戸時代は都市でも田園でも、いまでは迂遠な理想となり果てた「循環型社会」がみごとに実現され、100パーセントの食料自給率を誇っていた。江戸時代に来日した数多くの西洋人が日本人の美意識の高さ、規律の正しさ、清廉潔白さ、几帳面さ、仕事の丁寧さ、誠実さに感動し、身のまわりや生活空間の清潔さについて記録しているが、岡田茂吉氏もまたそんな日本人のひとりだったのだ。

鎖国から一転してはじまった外国思想の導入や生活の洋風化といった明治政府の政策をうけて、日本人は大きく二分された。なだれを打つようにして西洋化に向かって走る人たちと、攘夷の気分さめやらず、感情的に西欧列強を敵視して、いたずらに右傾化する人たちである。
そんな国民的分裂のなかにあり、絶妙なバランス感覚をもって江戸文化の美質の継承と新時代創造への参加を果たした数少ない日本人のひとりだったからこそ、岡田茂吉氏はのちに「脱近代」の思想家となることができたのだと、わたしは考えている。

ワシントンDCのシンポジウムで司会をしていたわたしは、アンドルー・ワイル博士とマイケル・ディクソン博士に岡田茂吉氏による近代医学批判の要約を紹介して、それぞれの見解を伺ってみた。その要約とはつぎの5項目である。
近代医学は、
①霊の存在を認めていない。
②自然治癒力を認めていない。
③人間を魂・心・体の統合体として認めていない。
④対症療法であり、根治療法ではない。
⑤投薬治療に依存しすぎる。

これにたいしてワイル博士はこう答えた。「じつは驚いています。というのも、その5項目は、われわれの統合医療の思想と完全に一致しているからです。正確に同一のものだといってもいい」。そしてディクソン博士はこう答えてくれた。「同感です。おっしゃるとおりです。岡田茂吉氏は時代を超越しています。岡田氏の指摘した5項目が全国の医師、看護師、セラピストの頭のなかに叩きこまれていれば、患者のケアの質が大幅に向上し、医療費が劇的に削減されるにちがいないと、わたしは考えています」

現代医学の最先端に位置する医師たちが取り組んでいる「統合医療」とは、①健康と治癒に重点を置き、②患者を精神的・感情的・霊的な実在として、コミュニティの一員として全人的に診る、③患者のライフスタイル(食習慣・運動習慣・ストレス対処法)を診る、④患者の他者との人間関係のありかたを診るという新しい医療である。
統合医療の医師は、当然のことながら、近代的な価値観を乗り超えようとする「脱近代」志向の思想にもとづいて診療を行なっている。したがって、同じ「脱近代」を提唱する岡田茂吉氏とは、いわば同志のような関係にある。そのことを実感したのが今回のシンポジウムであった。



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