岡田茂吉を語る
地上天国 「今私達は切実に地上の平和、人々の信頼を希んでいます。」
人間国宝(重要無形文化財保持者) 染織作家・随筆家 志村ふくみ(しむら・ふくみ)
染織作家、随筆家。1924年滋賀県近江八幡生まれ。1955年植物染料による染色を始める。1964年京都嵯峨に移り住む。1990年重要無形文化財保持者(人間国宝)となる。著書に『一色一生』(大佛次郎賞)『語りかける花』(エッセイストクラブ賞)、娘・洋子さんとの共著『しむらのいろ』他。
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地上天国 「今私達は切実に地上の平和、人々の信頼を希んでいます。」
はじめて救世教のことを知ったのは随分昔のことのようですが、私にとって救世教は常に新しく自由な宗教だと思っています。
岡田教祖はもともと宗教はこの教えの一部であり、一ばん大切なことはこの世に天国をつくるということだと実に適確に直截に宣言されています。これ以上何をつけ加えることがあるでしょう。私共のように直接の信者でないものでもこのことだけは何の疑いもなくよく分ります。本当に人類の一ばん願っていることであり、何の差別もなくどんな国のどんな宗教も学問も芸術もすべてを含んでこの地上に実現されることを望んでいます。
しかしその理想とは裏腹に人類はますます破壊的な方向に、自然を犯し、国々は争い、途方もない差別社会を生み出しています。誰もそれを制することができません。人類の暗黒面に心を奪われ共に苦しんでゆくことは避けることのできない現実ですが、その傷が深く悩みが深刻になればなるほど、一方で不思議なほど何かを希求しこの暗い時代に光を求めたくなるのは必然です。苦しんで悩まずして、本当の宗教は生れてこないと思います。
今私達は切実に地上の平和、人々の信頼を希んでいます。岡田教祖が唱えられるようにこの地上に天国を実現するにはどうしたらいいか。教祖ののこされた京都の平安郷は一つの現れです。四季を通じあれほどの自然が豊かに咲き匂うところはないと思っています。私の住んでいる嵯峨野からすぐ近くなので度々訪れさせていただきます。いつ伺っても心が洗われます。何の説明もなくそのままの姿で地上天国を指し示してくださいます。そこにこそ教祖の遺志を私は感じるのです。単なる手の行き届いた庭園ではありません。そこには奥深い日本の和があり――平安時代から続く文化の精髄があの広沢の池、遍照寺山、一体に息づき、知性の高い風景となっています。そこを選ばれ平安郷を創造された教祖の慧眼を思うのです。一朝一夕に出来上ったものではなく多くの信者さんが大事に守り育てて来られたものです。
春四月にあの庭園に咲き匂う桜の大樹の大らかな美しさはこの世のものとは思われません。それこそ教祖の魂が現前されたのではないかと私は心打たれるのです。
自然の力は決して大げさでも虚飾でもなく真実を伝えています。