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DR.WEIL’S GRACEFUL DAYS
ワイル博士のグレイスフルデイズ

グレイスフル(Graceful)
「潔い」「優雅な」「気品のある」などの意味。ワイル博士が語る、人に本来備わっている自然治癒力や免 疫力がいきいきとはたらくための潔く優雅な日々の送り方。

アンドルー・ワイル

医学博士。1942年アメリカ・フィラデルフィア生まれ。アリゾナ在住。アリゾナ大学医学校・統合医療プログラム部長。西洋医学と代替医療を統合する「統合医療」の第一人者。『癒す心、治る力』『ヘルシーエイジング』『ワイル博士のうつが消えるこころのレッスン』(以上角川書店)など著書多数。
オフィシャルホームページ:http://www.drweil.com/



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大災害から前へ進む


(翻訳 上野圭一)

3月11日の大震災と原発事故、そして復興への道のりは、世界中に大きな悲しみと強い関心を引き起しました。この災難は、日本にとって、生活の基盤そのものに深い裂け目をもたらすものでした。あまりに巨大な喪失、あまりに深刻なダメージが、電気や水道、ガスなどの基本的なライフラインの不足と複合して起こり、その上に未知のものへの恐怖が重くのしかかっているのです。多くの人が、どうしたら前進できるのかもわからないままに、とり残されています。

本誌の読者のなかには、大地震と大津波で家族や家を失った経験者もおられることでしょう。また、破壊と損害をその目で、あるいは映像で目撃した人、愛する人たちとご自分の身の安全を懸念している人もいらっしゃるでしょう。
あれからかなりの時間がたっても、うつ状態、怒り、虚無感など、感情の重荷に苦しんでおられる人も多いことでしょう。災害が感情におよぼした甚大な重荷から生じる症状には、無気力・睡眠障害・胸部や腹部の不快感・食欲不振・頭痛など、さまざまなものがあります。そうした反応はすべて、悲嘆と結びついています。それは日常生活の正常なパターンの崩壊や、想像もしなかった喪失感を味わうことから生まれるものなのです。

わたしの同僚でカウンセラーのデボラ・モリス・コリエルは「悲嘆にくれることは病気ではないのだと理解することが大切です。それはむしろ正常なことであり、喪失体験にたいする健康的な反応なのです」といっています。コリエルはさらに「経験したことにたいする感情の反応を癒すためにかかる時間には、正常も異常もありません。治癒はしかるべきときに訪れます。でも、治癒を促進する安全で効果的な方法もあるのです」ともいっています。

自分の感情を家族や友人たちと分かち合いましょう。親密な家族のきずな、地域社会の結びつき、宗教組織の連帯感といった強いサポートシステムがあれば、それが喪失をうまく乗り越えるための助けとなります。心理療法家、メンタルヘルスの専門家、悲嘆カウンセラーなどの助力を得て苦しみに対処し、失われた意味をみいだすこともできます。自分自身または家族の不安やうつ状態がひどく、治療が必要だと感じたら、精神科の医師に相談するのもいいでしょう。

自分のスピリット(霊・魂)にこころを向けましょう。恐れやストレスを打ち消すためにスピリットに語りかけ、うつ状態を呼びこみやすい、孤独でいる時間をへらすのです。

自分自身が助けを必要としている情況にあってさえ、助けをもとめている他者のためにボランティア活動をすることによって、スピリットに仕えている人もいます。よい音楽に耳を傾け、瞑想し、許すことの訓練をする人もいます。自分が傷ついたときは、自分よりも大きななにものかと結びついた活動ならなんでも、自分のことだけを考える袋小路にはまらないようにする大きな力となり、それが治癒をサポートしてくれるのです。やさしくタッチし、祈り、あるいはただそばにいることによって、あなたの共感的な自己を周囲の人たちと分かち合いましょう。

大災害の余波が色濃く残るこの時期、情況が厳しければ厳しいほど、自分自身の健康習慣にも目を向け、健康の維持をこころがけましょう。バランスのとれた食生活と運動の習慣化はぜひ実行してください。毎晩、少なくとも7時間は眠り、カフェインやアルコールの摂取量は制限しましょう。呼吸法・ヨーガ・瞑想・イメージ法などのリラクセーション法を実行して、不安やストレスを管理してください。そして必要を感じたら、だれかに助けをもとめてください。そうしたポジティブなステップが、生産的な習慣を身につけることや健康の維持に役立つのです。皆さん、どうかお元気でお過ごしくださいますように。(2011年)