DR.WEIL’S GRACEFUL DAYS
ワイル博士のグレイスフルデイズ

グレイスフル（Graceful）
「潔い」「優雅な」「気品のある」などの意味。ワイル博士が語る、人に本来備わっている自然治癒力や免疫力がいきいきとはたらくための潔く優雅な日々の送り方。

アンドルー・ワイル

医学博士。1942年アメリカ・フィラデルフィア生まれ。アリゾナ在住。アリゾナ大学医学校・統合医療プログラム部長。西洋医学と代替医療を統合する「統合医療」の第一人者。『癒す心、治る力』『ヘルシーエイジング』『ワイル博士のうつが消えるこころのレッスン』（以上角川書店）など著書多数。
オフィシャルホームページ：http://www.drweil.com/

現代医学を補う「スピリチュアルヒーリング」

（翻訳　上野圭一）

「スピリチュアリティ」（霊性）とは「究極の目的にむかう旅」または「究極の目的を直接経験すること」だと考えるのがいちばんいいように思われます。スピリチュアリティの核心は「つながり」にあります。自分自身との、他者との、自然との、ものごとの真の原因または人知をこえた高次元の力とのつながりです。その高次元の力をどのような力だと考えるかは重要ではありません。重要なのはこころの奥底から、その力とのつながりを実感することです。
自分が自分よりも大きな「なにものか」と分かちがたく結ばれていると実感できる人は、世界とのつながりを失っている人よりも恐怖心が少なく、健康度が高い人です。スピリチュアリティと宗教とはまったく同一のものだとはいえませんが、あらゆる宗教や伝統文化にはスピリチュアル（霊的）な治癒を促進するための教えや、実践法や、儀礼などがあるものです。宗教的であろうがなかろうが、活力がよみがえったと感じさせる活動、他者や自然とのつながりが深まる活動、孤独が解消される活動、楽観的になれる活動はすべて心身の健康に有益なものになります。

人は助けを必要としている他者に手をさしのべることによって、日々聖典を読み、聖なる音楽を聞くことによって、あるいは前途に希望を持っている人たちや楽観的な人たちの仲間に入ることによって、スピリチュアリティを高めることができます。また、許す努力をすることによって、瞑想することによって、美しい芸術作品に囲まれることによっても、人はスピリチュアリティを高めることができます。そうした実践が自己陶酔に陥ることから身をまもり、人生の枠組みを拡大してくれるのです。

わたしもさまざまな活動によってスピリット（生命力）の栄養補給をしていますが、なかでも気に入っているのは呼吸法とガーデニングです。
呼吸は物質界と非物質界という、ふたつの世界にまたがる活動であり、固有の運動とリズムをともなうものです。それはからだのなかのスピリットの運動だと考えることもできれば、いのちや活力の根源だと考えることもできます。意図的に呼吸を変えようとせずに、ただ自分のしている呼吸に注意を集中しつづける。たったそれだけで、自己の非物質的な本質への気づきを深めることができます。

ガーデニングは自然とのつながりを深める助けとなり、自分が自然界の一部であることを実感させてくれます。公園のような自然のなかを歩き、そこに座っているだけでも、わたしにとっては畑仕事をしているときとおなじ効果があります。病気は、当人とその家族にとって、スピリットが潜在的に危機にあることをあらわしているものです。なぜなら、それは彼らと世界とのつながりに障害が生じているか、もしくは破綻していることのあらわれであるからです。スピリットの健康は病気の対処法、回復、生活の質の向上と密接な関係にあります。というのも、傷ついた「つながり」を癒すことが「全体性」を支援する力になるのですから。

そのむかし、医師はヒーラー（治療者）であると同時にスピリチュアルリーダー（霊的指導者）でもありました。科学的医学の到来とともに、医師はそれまでの霊的な役割をあっさりと捨て去ってしまい、いまでは医師と患者の会話のなかにもスピリチュアリティにまつわる話題はめったに登場しなくなりました。その歴史が患者の側にとっても医師の側にとっても重要だった「治癒の道具」を奪うことになったのは、返す返すも残念なことでした。
患者が実践している独自のスピリチュアルな活動に敬意を表し、それを支持する医師は、現代医学の治療においても成功率を高めることにつながっています。わたしはアリゾナ州トゥーソンにあるアリゾナ大学で「アリゾナ統合医療センター」を率いていますが、そこの医師たちは患者の病歴をとるときに「スピリチュアル目録」という項目に記入するべく訓練されています。そして適切と思われた場合は、患者とともに祈り、患者のスピリチュアルなニーズに応じて具体的な処方せんを提供しています。