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DR.WEIL’S GRACEFUL DAYS
ワイル博士のグレイスフルデイズ

グレイスフル(Graceful)
「潔い」「優雅な」「気品のある」などの意味。ワイル博士が語る、人に本来備わっている自然治癒力や免 疫力がいきいきとはたらくための潔く優雅な日々の送り方。

アンドルー・ワイル

医学博士。1942年アメリカ・フィラデルフィア生まれ。アリゾナ在住。アリゾナ大学医学校・統合医療プログラム部長。西洋医学と代替医療を統合する「統合医療」の第一人者。『癒す心、治る力』『ヘルシーエイジング』『ワイル博士のうつが消えるこころのレッスン』(以上角川書店)など著書多数。
オフィシャルホームページ:http://www.drweil.com/



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体内の炎症を抑える食生活で、健康的なライフスタイルを実現する「抗炎症ダイエット」


(翻訳 上野圭一)

適切な栄養は、健康づくりにおける最重要課題のひとつです。加齢にともなって生じる慢性疾患の多くは、生涯をつうじて「抗炎症ダイエット」(体内の炎症を抑える食生活)をはじめとする、理にかなったライフスタイルの実践によって避けることができます。
損傷や攻撃を受けたからだの部位に免疫活動や修復活動を指示する炎症は、人体に備わった治癒反応のかなめ石ともいえるものです。炎症反応の範囲は通常、損傷を受けた部位だけに限定され、健康な細胞を危害から守りながら、損傷を受けた組織に生命力を回復させて、その組織が治癒したら活動を停止するようにできています。
しかし、炎症が当初意図していた活動範囲や活動目的を踏み外して持続してしまうと、本来ならば、からだを治癒するはずの力が、破壊する力に変わってしまうのです。最近の研究では、心臓病・アレルギー・ぜんそくをはじめ、ある型のがんをも含む慢性疾患の原因の背景にはこうした不都合な炎症反応があるとされています。
ストレス、運動不足、遺伝的素因、有害物との持続的接触(たとえば紫外線やたばこの副流煙)などは、すべてそうした慢性炎症を促進させるものですが、それらは食生活の改善によってかなりの予防が期待できるのです。
したがって、余分な炎症を抑制し、長期にわたって炎症がもたらす健康リスクをへらすためには、炎症のプロセスを左右している食物について知ることが大切になります。
わたしがお薦めしている抗炎症ダイエットは、健康的なライフスタイルを実現するためのプログラムの、栄養面を代表するものです(詳しくはわたしのホームページをご覧ください)。このプログラムの「ダイエット」は一般に流布している意味での「やせる」食事法でもなければ、期間限定のお試し食事法でもありません(とはいえ、この「ダイエット」を実行している人は、結果として体重が減少しています)。
抗炎症ダイエットの特徴は、最適な健康を維持するための食物にかんする科学的知識をベースにして、食材を選び、調理する方法を具体的に解説しているところにあります。ただ炎症を抑制するだけではなく、心身に安定したエネルギーとビタミン、ミネラル、必須脂肪酸、食物繊維、保護的に働く植物性栄養素を供給するためのプログラムであるところに特色があるのです。
抗炎症ダイエットの主要な食材には、全粒穀物など消化に時間のかかる炭水化物、抗炎症作用のあるオメガ3の摂取源であるイワシ、アジ、サバなどの青身魚、動物性タンパク質よりも毒性が少なく、良質な脂質を含む植物性タンパク質(豆類、大豆発酵食品)、ゴマなどの種子類やナッツ類、色鮮やかで新鮮な多品種の野菜と果物、とくにブルーベリーなど、色の濃いベリー類があります。
そして飲み物にかんしては緑茶をお薦めしています。抗炎症作用もあるし、味わい深いものだからです。

炎症を促進するような食品の摂取量をへらしていくことも大切です。とくに注意していただきたいのは加工されすぎた食品と消化が速い炭水化物の食品です。ファストフード、「一部水素化」と記された油脂を使った食品、植物性マーガリンを含む植物性のショートニングの摂取を避け、ヒマワリ油・紅花油・大豆油・コーン油などの多不飽和油脂の使用も最小限にしてください。
わたしの抗炎症ダイエットは、伝統的なアジア料理や地中海料理によく似ています。残念なことに、アジアや地中海沿岸ではそのよき伝統が急速に失われています。
たとえばアジアの人たちの多くは西洋風の食生活に乗り換え、深刻な健康危機を招いています。抗炎症ダイエットのプログラムは、伝統的な食生活に敬意を表して考案されたものであり、それを実行する人が生涯をつうじて最適な健康を享受することに寄与するものなのです。